あ行/か行/さ行た行な行は行ま行や行ら行
スペースオペラ用語辞典/か行

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カイパー・ベルト[かいぱー・べると](参考)

  1. サイエンス誌99年12月号によると、海王星軌道の外辺りから海王星軌道半径の2倍辺りまでのドーナッツ状の空間に、直径数キロ〜数百キロの小惑星が数十万個公転しているのが発見されているらしい。
    由来は良く分からないが、木星と火星の間の「アステロイド・ベルト」と区別して(?)「カイパー・ベルト」と呼ぶようである。

  2. いわゆる「第十番惑星」として考えるには少々質量不足のように思われるが、これから更に詳細が判明してくるであろうし、誠に楽しみである。


火星航路SOS[かせい・こうろ・SOS](火星航路SOS)

  1. 現題は“Space hound of IPC”。翻訳が出る前、創元推理文庫“宇宙のスカイラーク”巻末の解説で“IPCの宇宙犬”として紹介されており、筆者は当時いささか困惑した記憶がある。後から出た創元推理文庫版のタイトルは“惑星連合の戦士”であるが、残念ながら早川書房版とともに絶版状態である。筆者も創元版は所持していないので、早川版と創元版に違いが有るのかどうかは分からない。

  2. スカイラークの成功の直後だけに期待に満ちて書いた作品であったが、舞台が太陽系内部にとどまっていたばかりに、当時の読者の評判は良くなかった…らしい。

  3. しかし実際に読んでみるとなかなか良く書けている。(特に前半2/3位までは..)“宇宙のスカイラーク”の解説によると、ストーリーが太陽系内に収まっていたための不評であったらしい。“銀河系外におよぶスケールの大きな話”であることが特にセールスポイントにならない現在の目で見ると、(少なくとも不評に耐え兼ねて急遽連載を終わらせにかかるまでは)むしろよくまとまっているという印象の方が強い。「読む方に見る目が無かったんじゃあないか?」と言ったら当時の読者に気の毒だが、偽らざる心境ではある。

    さて、ストーリーが進むにつれ段々と話の舞台も広がっていくので、最終的には他の太陽系を巻き込んだ大スケールの物語にするつもりだったのだが、その前に肝心の連載打ち切りが決まってしまった(ラストは唐突かつ強引に終わってしまう。広げすぎた風呂敷きを大慌てで畳んでいるかのようである。)…と言うところではないか?

  4. 後の“三惑星連合軍”の設定を先取りし、また後々に発展しそうな仕掛けも満載で、スミスの張り切って書いている顔が浮かんでくる出来栄えである。

    恐らくは、本作それ自身は不評でも“三惑星連合”というアイデアは読者も高く評価していたのであろうし、スミスも大いに気に入っていたのであろう。“三惑星連合軍”という本作のリメイクが後から書かれたと言う事実が、なによりこれを証明している。(ところでレンズマンシリーズの一作として残った“三惑星連合軍”の出来ばえだが、皮肉なことに、本作よりも数段劣るのである。)

  5. そのままスミスの構想通りに完成していたら、これがこのままレンズマン・シリーズに発展していったかもしれず、不運の佳品と言うべきであろう。

火星の人面岩[かせい・の・じんめん・いわ](参考)

  1. たしか昨年(1998)だったと思うが、従来比で数倍程度解像度が向上した映像が公開され、人面岩はやはり普通の岩山に過ぎなかったことが判明してしまった。黙っていたところで、いずれは明らかになってしまうこととは言え、も少し秘密にしておいても良かったんじゃないかな?
    将来の有望な観光資源が一つ消えてしまったとも言える訳で、ちょっと残念な気もするような。

  2. これ一つを取り上げてみても、NASAという団体が「公開には熱心だが、秘匿することは---少なくとも大向こうに受けそうなことと、秘匿しても仕方の無いことは---余り考えてない」と言うことが良く分かる…と思うのだが。

  3. とは言え、「低解像度の映像」=「単純なデジタル・ローパスフィルタの出力」と考えられないこともない。「細かく見ると一見普通の岩山だが、大体は人の顔の形をしていることの分かる貴重な映像データ」とも言おうと思えばナンボでも言える。
    丁度エジプトのスフィンクスの顔がグズグズに崩れていながらも未だなんとなーく顔の形が残っているように、「元はちゃんとした顔の形だった証拠」「超太古の遺蹟なんだから痛んでいるのは当たり前」なーんて言い出す奴が、きっといるんだろうなあ?

火星のプリンセス[かせい・の・ぷりんせす](火星シリーズ)

  1. ご存知E.R.バローズの代表作。説明は「E・R・バローズの冒険世界へようこそ」HPに詳しいので、そちらをどうぞ!

  2. その昔、鏡明氏が「ガールフレンドに読ませても一応面白いと言ってくれる数少ないSF」とどこかの雑誌で書いておられたのを思い出し、カミさんに読ませたところまでは良いが「最初の方で幽霊みたいになってドキューンと火星まで飛んでいっちゃうでしょう。あそこで付いて行けなくなっちゃったんだあ。あそこまでは結構面白いんだけどねぇ。そのあとだってまあ面白いけど、あそこでねえ、ちょっとあたしの(世界?)とは違うなって思った。」と言われてしもうた。

    ま、その確かに通りですけどね。
    筆者とて、初読のおりにはあの箇所でちょいと引っかかるものを感じたのは確かだし...あそこを上手いとこ乗り越えられたら後は一気なのだが。

加速度[かそくど](宇宙のスカイラークなど)

  1. 速度の増大量のこと。
    単位時間あたりの速度増大分(速度の微分量)で示され、単位はメータ/毎秒毎秒(m/s^2)。
    加速度が発生した時は、必ずその物体に力が加わっている訳であるから、加速度の大小は物体に加えられている力の大小を示すことになる。と言う訳で、重力場の強弱をその重力場の中で受ける加速度の大小で表現することができる。ご存知のように、地球表面重力(1G)は約9.8メータ毎秒毎秒である。

  2. スカイラーク・シリーズ中においては、「光速の数十倍(または数百倍)の加速度を発揮した」という類の表現に度々お目にかかる。少なくとも我々の宇宙においては光速は不変であり、光速に加速度を定義できないのではないかと思われるから、これは引っかかる人は引っかかるところかもしれない。
    例によって原文を見てないし、野暮は言いたくないが、「(短時間に)光速の数百倍にまで達するほどの加速性能」とでも意訳すべきだったのではなかろうか。まあ、これが「クラシック(特に初期紹介作品,翻訳も含めて)の味わい」というものではあろう。

カルシウム[かるしうむ](参考)

  1. 原子番号20。カルシウムは周期表の2列めに属しており、どちらかというと活性が高い方ではないかと思われるが、キャプテンフューチャー・シリーズではサイクロトロンの反応安定剤(抑制剤)として知られている。
    サイクロトロンの「原子燃料」としては鉄(鉄粉)と銅(銅粉)が利用可能であるが、前者が極めて安定だが低出力なのに対し、後者は高出力だが不安定であり、サイクロトロンを安定的に連続運転するには反応抑制剤としてカルシウムの併用が欠かせないという事になっているというもの。この場合、サイクロトロン中の原子爆発により燃焼ガスと一緒にカルシウムも排出さえるため、常に一定量を補給しつづけることが必要らしい。
    大型宇宙船のサイクロトロンを数十分運転するためには、人間(成人)一人の肉体に含まれているカルシウムが必要である。

  2. 現実の原子炉においても、核分裂反応の連鎖スピードを抑制し原子炉を安定に連続運転するための機構があることを考えると、上記の設定は「ハミルトンもなかなかやるなあ」と思わせるものがある。

枯れた技術[かれた・ぎじゅつ](参考)

  1. その技術を実際に適用するための様々な問題が、十分に解決済みの技術のこと。

  2. 一見すると、飛躍的に進歩した新技術=良い物と考え勝ちであるが、実際の物作りの上では(特に実用品に対しては)新技術というやつは実に危険な代物で、予期せぬ事故の直接・間接の原因となりうる。この点から言って、枯れた技術というやつは確実・安心である。超技術の跋扈する未来世界においても、“枯れた技術”の賜物たちは相変わらず愛用されていると思われる(宇宙空母の艦載機エレベータにも原理的には今とあまり変わらない油圧モータが使われているであろう。)またどんな未来になっても、車輪や歯車やネジは使い続けられるに違いない。

  3. 恒星間宇宙船だからと言って端から端までが超技術で出来ている訳ではなく、むしろ、“その時点”での可能な限り枯れた技術で設計されていると考えるほうが自然である。実際の“宇宙戦艦”の艦橋は、未来的な一部分が大多数の古めかしい機器に入り交じった、ちょっと不思議な、それでいてリアルさの香る魅力的なところに違いない。

  4. 以上の大部分は著者のオリジナルではなく、友人のイラストレータA氏が20年近く前に指摘してくれたことである。多謝。

  5. 追記.上記で「油圧モータは生き残るだろう」と書いたが、最近は軍事用のモータとしては油圧モータを廃止(なるべく電動モータに置換)する方向にあるようである。主旨は「可燃物(=油)を極力追放する」と言うことらしい。そう言えば、戦車の砲塔モータなどはすでに電動化されていたっけ。

    空母の艦載機エレベータなど特に「しぶとさ」の要求される部分であろうから、早々に電動モータに置き換わる可能性もある。(もしかするともう置き換わっているかも?)

カーロン[かーろん](宇宙のスカイラーク)

  1. 惑星オスノームの飛行怪獣。

  2. 戦艦に匹敵する(推定体長200m)魚雷型の巨体、数十本の触角と十枚の翼をもち、船首のような鋭い嘴のある頭部の両側にずらっと目が並んでいる。

  3. 空を飛び、地に潜り、海底を行き、惑星オスノームのほとんどの場所で活動可能。更に、全身を透明なアレナックの鱗で包んでおり、ほとんど不死身の怪物である。

  4. その体内で、どのようにしてアレナックの生成を行っているのか? 、残念ながら全く分かっていない。しかしながら、その体組織内部に触媒としての塩化ナトリウムが微量含まれていることは間違いない。オスノーム人が入手している僅かな塩化ナトリウムは、このカーロンの死骸から回収した物であると思われる。

  5. "ナウシカ”に登場する“王蟲”に翼と触角をつけて空を飛ばしたら、これに近いイメージになるであろう。そういえば、“ナウシカ”の作中、王蟲の抜け殻を解体して、工具や建築物の材料として利用するというくだりがあるが、オスノーム人がアレナックを利用し始めた頃も、恐らくこの様(カーロンの死骸や、こぼれ落ちた鱗からアレナックのかけらを入手)であったのであろう。

慣性駆動系[かんせい・くどうけい](銀河辺境シリーズ)

  1.  銀河辺境シリーズに登場する、一種の人工重力による推進装置。強烈な振動と爆音の避けられない反動推進駆動系とは異なり、静静と優雅に上昇していけるので、通常の離床はもっぱらこれにより行われる。反動推進駆動系のように推進剤を必要(消費)せず、純粋に運動エネルギーを発生することが出来るので、この点からも宇宙船(特に何時次の補給が得られるか分からない軍用宇宙艦)の推進機関として好都合である。

  2. 「一種の弾み車を応用したもの」とだけ説明されており、動作の詳細は謎に包まれている。

  3. 一説によると、偏心した弾み車の発生する「反動」を片方だけ残す/片方に集めることにより一方にのみ力が働くようにするもの(作用/反作用という現象をどうやって打ち消しているのかな?)、であるらしい......。

     

観測された事実[かんそくされた・じじつ](宇宙のスカイラーク)
  1. “そんなに速く飛べるものはないよ、マート。EイコールMC二乗だからね。”“アインシュタインの相対性理論は、所詮は理論にすぎないのだよ。これは観測された事実さ。”

  2. こんな無茶を言うのはシートンだとばかり思っていたが、実はクレインの科白であった…クレインという人は割かし堅実なタイプという印象があったのだが、どうしてどうして、やはりただ者ではなかったのだ。(シートンの友人だけのことはある)

ガンマ3号宇宙大作戦[がんま・さんごう・うちゅう・だいさくせん](参考)

  1. 東映製SF映画。1968年に公開。監督は深作欣二だが、同監督がずーっと有名になってから作った(作らされた)“宇宙からのメッセージ”よりも数段良い出来である。

  2. うっかり侵入させてしまったアメーバ状の宇宙生物が、宇宙ステーション内でエネルギーを吸収し、アッという間に大増殖だサア大変、といった宇宙船ビーグル号やエイリアンを思わせるストーリー。変にひねくったところが無いストレートな構成が成功しており、今見ても結構面白い。

  3. 加えて美術デザイン、特に同時期の東宝特撮映画のそれとは異なるデザイン(見る人によっては少々オモチャっぽいと感じるかも知れないが)がすばらしい。ただし特撮そのものの出来は、同時代の円谷作品と比べややチープである。この点を承知の上で観ていただければ十分楽しめる。

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逆2乗の法則[ぎゃく・じじょう・の・ほうそく](参考)

  1. 「空中に放射されるエネルギーは距離の2乗に比例して減少する」という法則で、具体的に例をあげれば「到達距離が2倍になれば到達エネルギー密度は1/4になる」また「到達距離が10倍になれば到達エネルギー密度は1/100になる」ということになる。
    音波,電磁波などの、拡散しながら伝わるもの全てに適用される。

  2. よく誤解されているが、レーザー光線のような集束度の高いものについてもこの法則は有効である。たとえコヒーレントな光であっても長い距離を進むうちに僅かずつは拡散していくからである。

    このため、あらゆるビーム砲には有効距離(射程距離)というものが存在する。といっても、集束度と元のエネルギーが十分に大きい場合は、そう簡単には威力が低下する訳ではなく、たぶんレーダーが届く距離なら確実に射程範囲内であろう。(レーダーの場合は目標と自分の間に電波を往復させねばならず、同じ程度のエネルギーで有効距離を伸ばすには、一方通行でOKのビーム砲よりも余程工夫が要るであろう。)

  3. 一方、カタマリがすっ飛んでいく「投弾型兵器」の場合には、ビーム兵器に比べて著しく低速になるものの、慣性の法則により到達距離に限界がないのでものすごーく遠いところまで「気長」に弾を送るような場合には適している。
    よって、惑星間戦略爆撃のような気長で地道な用途には、ビーム兵器ではなく「遊星爆弾」みたいなものが使われると言う訳である。


QX[きゅう・えっくす](銀河パトロール隊)

  1. 銀河パトロール隊関係者同士の会話に度々登場する語。
    単純に「OK」とか「了解」とか言った意味に取っておけばQXである。

  2. 恐らくは、パトロール隊で良く使われる符丁の一つ「クリアー・エーテル:Clear-Ether(針路上に異常なし,発進準備すべてよろしと言った意味。)」の省略形、もしくは省略形から発展(なまった)もの。

機関車トーマス[きかんしゃ・とーます](参考)

  1. 蒸気機関車に酷似した機械生命体と現住人類との、ほのぼのとした交歓を描いた作品。事件らしい事件もほとんど起きず、淡々とした語り口や田園趣味がクリフォード・シマックの諸作品をも連想させる。
    ほとんど自力では動かず、またその表面が光沢があって硬そうであることなどから、「人類」として描かれている種族も何らかの「珪素系生命体」である可能性もある。また石原藤夫氏の「ハイウェイ惑星」からヒントを得たのでは?とも思われる部分も無くはなく、表面的な印象よりも実はずっとハード・コアな作品なのかもしれない。

    いずれにせよ「夜の大海の中で」に始まるグレゴリィ・ベンフォードの連作(人類と機械生命体との死闘を描く)などとは対極をなす作品と言えるだろう。

  2. 幼児のいる多くのご家庭と同様に、ウチにも「プラレール機関車トーマスくん」がおります。
    中でも問題児はムスメがごひいきの「機関車ゴードン」でして、絵本のお話では「一番力持ちで、一番速い」機関車ということになっているんですが、プラレールでは「たぶん一番遅い」機関車のようです。たぶんトルク重視のギア比になってるんでしょう。
    幸い、さるHPを拝見してプラレールのモータはミニ四駆用のそれと同寸法と分かりましたので、タミヤ製「ジェットダッシュ・モータ」に交換したところ、これなら速いこと速いこと!(電池はすぐ無くなっちゃうけど)
    一個所だけ半田付けの必要がありますが、作業はとても簡単でした。幼児の居る方はお試しあれ。

疑似科学[ぎじ・かがく](参考)

  1. その名の通り、科学のようで科学でないもののこと。一見「何でもあり」のようだが、実は案外そうでもない。既存の科学(科学者)を攻撃するような論調で書かれるため、そうそう自由にアイデアを展開するという訳にも行かないのであろう。ざまを見,あわわ....お気の毒様である。

  2. H.G.ウェルズ以来、一種の思考実験(の踏み台)としてSFが好んで取り上げるネタでもあるが、こちらは何でもありである(アイデア自身に新鮮な魅力がなければ金を払って読んでもらえないのだから、当然だが)。もちろん、読んで面白いのはこっちだよ。

  3. さて、どうした訳か「相対性理論の間違いを発見したという主張する本」とか「簡単な回路で反重力を作ったと主張する本」とか、疑似科学をフィクションとして楽しむのではなく、ノン・フィクションのような体裁(ノンフィクションと言い切らないところが、また悪質である)で売り逃げする、トンデモ系科学本が以前よりも書店で見かけることが多くなった。

    筆者が子供の頃からこの手の本はあることはあったのだが、これほど書店の棚を占めてはいなかったはずだ。一方、SFの棚は確実に狭くなっているのであるから、全く困った現象である.

  4. この手のものは伝統(?)を守って「連綿」と続いており、似た様なアイデアを、手を変えず品を変えず使いまわしている割に、なくなる気配はないようである。
    想像するに読者の方が「勝手に世代交代」してくれるので、類似ネタを繰り返してもそれなりに通用してしまうということなのだろう。なかなか良い商売である。

貴種流離譚[きしゅ・りゅうり・たん](参考)
  1. 筑摩書房刊「寅さん大全(井上ひさし編集)」によれば概ね「高貴な生まれの主人公が運命の命ずるところにより故郷を離れ、様々な困難を克服し成長して行く。」のような物語を言うらしい。
    また同じく同書によれば「最も古く安定した物語形式のひとつ」でもあるという。

  2. 要するに「バローズタイプの作品を含め、成功した宇宙活劇にはこのタイプが結構多い」ということなのである。

    例えば、ジョン・カーターの出自は不明だが、彼は初登場時から不老不死という特別な人間としての衣を身にまとっている。ターザン(グレイストーク卿)は言わずもがなである。
    キムボール・キニスンはアリシア人によって守られ・半ば作られた家系の人間である。キャプテン・フューチャーは本来普通の人間のはずだが、高名な科学者の忘れ形見で、その上ロボットとアンドロイドと生きている脳によって月世界(つまりは俗世から隔離された環境)で養育されたという非常に特殊な経歴の持ち主だ。
    スターウォーズに至っては、正しく貴種流離譚そのものと言って良い。

    こうして考えると、貴種流離譚が「非常に純度の高いヒーロー物語」であり、いかに読者に強くアピールする構造であるか良く分かる。ヒーローはその出自に伝説を身にまとう必要が有るのだ。

  3. 「へなちょこ」なことを言うようだが、もちろん例外も沢山ある。スカイラークのリチャード・シートンはどう見ても普通の人間の域を出ないし、ジェイムスイン教授にいたっては周囲の連中の方が余程特殊である。
    が、宇宙活劇の基本構造というか基本成分のようなものがちらちらと見えてくるようで、ちょっと面白いではないか?

キャプテン・ウルトラ[きゃぷてん・うるとら](参考)

  1. 過去に幾多の悪代官や逆臣や悪徳商人を排出した家系の出身であることを隠し続けつつ、先祖の悪行を「浄化」せんと悪と戦いつづけるという、SF史上最も悲壮な背景を持つヒーローの一人。

  2. 主題歌のレベルが尋常でない。なんたって富田勲である。

キャプテンの指輪[きゃぷてん・の・ゆびわ](キャプテン・フューチャー)

  1. キャプテン・フューチャーの指輪のことです。良いタイトルが思い付かなかったので、RPGのアイテムの名前みたいになっちゃいました。

  2. 太陽系9惑星を模した宝石がちりばめられており、個々が原子力モータでゆっくりと公転(各々が該当する惑星の位置関係を守りつつ公転)しているという凝った(アメリカンでゴージャスな!)作りである。キャプテン・フューチャーに会ったことが無い人でも、大抵この指輪のことは知っているらしい。太陽系でもっとも有名な指輪のひとつである。

  3. 太陽系最大の英雄だの科学の魔術師だの言われている割には、キャプテン・フューチャーその人については案外知られていないようである。大抵の人は本人を目の前にしても気付かず(ここの辺りは鬼平みたいですな)、指輪を見て初めて「何とあなたはキャプテン・フューチャーですね!」と気がつくシーンが度々出てくる位である。時にはキャプテン・フューチャー自身が指輪を見せて身分証明書の代わりのように使うこともあり、言わばレンズマンのレンズ・水戸黄門の印篭みたいに扱われている。しかしレンズと違って複製も容易そうであるし(特にウル・クォルンのような連中にとっては)少々不用心ではないかしらん?

球形宇宙船[きゅうけい・うちゅうせん](参考)

  1. “スカイラーク号”“ビーグル号”“グッドホープ号”等々、SFでは“球形宇宙船”というやつが度々登場する。色々と理屈は付くのだろうが、何より他の乗り物を連想させにくい点が宇宙船のデザインにふさわしい。

  2. これらはもちろん“真空の海”を行く船であるが、中にはスカイラーク号のように大気中を飛行するものもある。スカイラーク号の表面が単純に平滑に出来ているならば、その大気中飛行特性は巨大かつ超高速のナックルボールそのものでありその乗り心地は恐るべきものになる筈であるが、本作を読む限りそのような描写はない。スカイラーク1号建造の部分で船体構造が過剰に頑丈であるとの描写があるが、実はこれがポイントと思われる。過剰な構造=重量の不要な増大となるから、単純に考えると運動性に対して良い影響があろう訳がない。しかし機械的振動を押さえるだけならば、最も安易な手法は質量を増すことだからである。

    スカイラーク1号の場合乗員にかかる加速度を積極的に打ち消す方法はないので、乗員の耐Gが制限となって飛行時の加速にはもともと限界が有る。ならばエンジンの出力が十分有るのであれば、機体はある程度以上重い方が大気中の飛行特性などを考慮するとかえって好都合ということらしい。

驚異物語[きょうい・ものがたり](三惑星連合軍)

    「三惑星連合軍」の中、登場人物が「驚異物語の最新号」とやらを読んでいる部分がある。「アスタウンディング・ストーリーズの最新号」の直訳と思われる。

銀河パトロール隊[ぎんが・ぱとろーる・たい](銀河パトロール隊)

  1. レンズマン・シリーズ記念すべき第1作。

  2. 「パトロール」と名が付いているので銀河的規模の警察組織と考えている人も多いが、その母体は「三惑星連合軍」であり、れっきとした軍隊である。銀河パトロール隊内部において対ボスコーンの出来事一切を指して「ボスコーン事件」とは呼ばず「ボスコーン戦争」と呼ぶことからも明らかといえよう。

    つまり銀河パトロール隊とは重武装の警察組織ではなく、警察業務(時には司法全体)を兼任している軍隊と考えるべきである。これは非常に権限の大きな(過大な)組織と言わざるを得ず、これゆえに中枢がレンズマンで構成されなければならないのである。

銀河旅行[ぎんが・りょこう](参考)

  1. 講談社ブルーバックス刊。ハードSF作家石原藤夫氏による“科学的に実現不可能でない外宇宙旅行”についての解説書。(“経済的に実現可能な宇宙旅行”ではないところがポイント。)おそらくこの種の解説書は他に例が無く、また今後も類書が書かれることはないであろう。

  2. 筆者が子供のころは、SF雑誌上などで“光速度に近いスピードを出せるのは光子宇宙船だけ”と言われていたものである。この通説はずいぶん長い間“SFファンの常識”であったが、本書と姉妹書の“銀河旅行PART2”は、これが誤りであることを明確かつ平易に説明してくれる一般向けとしてはほとんど唯一の書と言って良い。

  3. 宇宙ものSFのファンのみならず、全てのSFファン必読の書のひとつである。本書を読むと、お隣の恒星系に行くのでさえ現実には如何に大変か身にしみて分かる。UFO信者の方々にも是非読んで頂きたい。

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空気遠近法[くうき・えんきん・ほう](参考)

  1. イラストレーションのテクニックの一つ。「空気中のチリやヨゴレによる不透明さにより、遠くにある物ほど霞んで不明瞭でモノトーンに見える。」という事実に即しており「遠くにあると表現したいものをソフトフォーカスかつモノトーン気味に描く」という手法。

    当然ながらほぼ真空の宇宙空間では成り立たず、実際にNASAの記録フィルムなどを見ると、少々違和感を覚えるくらいに鮮明でハイコントラストな映像になっている。

  2. 歴史的考察は専門家に聞かなければならないが、ルネサンス時代の絵画にも見られるなど、かなり昔から存在している技術であるのは間違い無い。
    またヨーロッパ絵画の影響かもしれないが、「東海道五十三次」や「冨嶽百景」などの浮世絵の中にも使われているのを見ることができる。

  3. かなり以前のことでしかも筆者の記憶に頼った内容で恐縮だが、SFイラストレータ加藤直之氏が「宇宙を描いた場合も、空気による遠近表現は取りいれた方が良いのではないか」との旨発言されておりました。
    確かに、リアルに描こうとすると距離に関係なく鮮明に描くべきでしょうが、それでは絵として奥行きに乏しいものになるかもしれませんし、どうせ人間の肉眼ではパンフォーカスというわけにはいかないというのも事実です。
    対象読者をどのように想定するかにも拠るのでしょうが、SFイラストレーション独特のジレンマですね。


クラーク軌道[くらーく・きどう](参考)

  1. 一般には馴染みのない用語ですが、要するに「静止衛星軌道」のこと。

    衛星が地球周囲を公転する周期が地球の自転周期と一致するような衛星軌道のことで、地上から見ると常に一ヶ所に衛星が静止して見えるところから一般的には「静止衛星軌道」と呼ばれる。

    このアイデアを最初に出したのがSF作家アーサー・C・クラークであったため、「クラーク軌道」との呼び名もあるそうな。

  2. アシモフの科学エッセイ中で、有人クラークの名を冠した衛星軌道があるのに触れて、今更「アシモフ軌道」などと名前をつけてもらおうとは思ってないがね、とミエミエの但し書きをつけて様々な衛星軌道の活用法を提案しましたっけ。

    残念ながら、今のところ「アシモフ軌道」や「アシモフ衛星」という名前の付いたものはない様である.。


クレイン邸[くれいん・てい](宇宙のスカイラーク)

  1. クレインの住居。敷地面積は約40エーカ以上と言うから、東京ドームなら4個分、戦艦大和なら6隻置いてお釣が来る広大さである。

  2. 代々技術者,機械工,発明家の家系なので、内部に工場並みの設備があり、一次型スカイラーク号(=オールドクリップ号)の建造もこの中で行われた。そのほか、軽飛行機(野田大元帥のSF英雄群像によると、発表当時は“カーチス複葉機”であったのを、戦後の版で“ヘリコプタ”に書き換えた)が発着可能な滑走路もあるらしい。滑走路はその前後左右にセフティーゾーンが必要なので、格納庫などの附帯施設も考えると敷地全体は40エーカでも不足と思える。恐らくは住居に隣接して滑走路などがあるものの、こちらは“クレイン飛行場”として別扱いになっているのであろう。

  3. ほとんど一人住まいに近く、使用人はシロー一家のほか僅かである。ワシントン市郊外のコネチカット・アヴェニュー沿いにある。シートン・クレイン工業会社の住所はこの中である。

クレジット[くれじっと](参考)

  1. 50年代SFではおなじみの「宇宙共通通貨単位」。おおむね1クレジット=1ドルと思えばよい。

  2. さすがに、未来の銀河社会でもドルを引っ張り出すのは気が引けたSF作家たちによって作り出された。最初に考え出したのは誰か?は知らないが、誰も特に権利を主張しなかったため一種のフリーウェア化し、ある時期は一種の基礎用語であった。
    最近は宇宙SFそのものが元気もないせいか、かつてほどは見かけなくなった。

  3. レンズマン・シリーズ(創元推理文庫版)では、「信用単位」として翻訳されているのがこれのようである。

クローラ[くろーら](ヴァレロンのスカイラーク)

  1. “ヴァレロンのスカイラーク”における悪役宇宙人。フェナクローンなどとは比較にならないほどの強力な勢力。

  2. 非ヒューマノイド型知性体で人類とは相容れないメンタリティを有する。退治してもちっとも心が痛まない、その点では“よく出来たやられ役”。

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原子電動発電機[げんし・でんどう・はつでんき](銀河パトロール隊ほか)

  1. 宇宙船の内部で使用する電力を生み出す装置らしいが、素直に解釈すると「原子力発電→電動モータ→発電機→電力」という過程を経ているとしか思えない。全く謎のシステム。

    原子力で「直接」電子を動かして(押して!)電子流を作り出す発電システムかも?!

    しかも銀河パトロール隊の特殊装備と言う訳ではなく、この時代の宇宙船の比較的ポピュラーな装備らしいのだ。楽しくも、困ったもんである。

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高圧電流[こうあつ・でんりゅう](参考)

  1. この表記を見るたびに、妙な落ち着かない気分になってしまう。
    頼むから、「高電圧」か「大電流」のどちらかにしてくれませんか?

工業標準[こうぎょう・ひょうじゅん](参考)

  1. 工業製品の「部品規格」や「性能の評価検査方法」などを統一し、メーカ,ユーザ双方の利便を図ろうというアイデアで、現在ではISO主導による世界共通の各種工業標準規格が定められている。
    今ではあまりにも当たり前なことではあるが、第二次大戦以前の我国では工業標準に対する取り組みが不十分で、陸軍の機体と海軍の機体ではネジ一つをとっても寸法が微妙に異なり使いまわしができないといった冗談のようだが笑えない苦労も多かったと聞く。

    所謂デファクトスタンダード(自由な競争の結果、なんとなく決まってしまった標準)を取り込んで工業標準に格上げする例も多く、特に変化の激しいコンピュータ産業においてはそのようにして決まっていくことが多くなった。

  2. レンズマンのように銀河系をまたに掛けた文明においては、当然このような工業標準が決められていると思われる。しかし肉体的特長から文化的要求まであらゆる部分で異なる各ユーザ(各惑星人)の事情を調整するのは並大抵のことではない。
    また技術的に先行する惑星が工業標準となった技術についてパテントを要求した場合、その額も冗談でなく天文学的数字になることが予想されるから、これを放置すると発展途上惑星の産業に対しては致命的な足枷となり得、ことは重大である。

    以上より、レンズマン宇宙における「銀河文明」は「ユーロ統一前のヨーロッパ」より更に更に緩い連合体であり、警察権と防衛については統一されているが、恐らくは極めて小さな領域(それぞれ恒星系数百個程度)に分割された一種のブロック経済により運営されており、工業標準やパテントもブロック内部に限定するようになっていると予想される。


光線学[こうせん・がく]

  1. ノルミランの科学分野の一つ。ロヴォル家代々の専門分野である。各種光線の振る舞いと利用方法について研究するというもの。“光線”には、我々が知っている“可視光線”“赤外線”“紫外線”や“電磁波”だけでなく、さらに高次の“第5次光線”とか“第6次光線”といったものがあるらしい。

  2. 原文を見ないと何とも言えないが、内容から言って“力線学”とか“放射線学”と訳すべきではないだろうか?

光年[こうねん](参考)

  1. 光速(=30万km/s)で1年間かかって到達する距離のこと。

    約95千億kmである。SI単位には含まれていないので、公文書上では使用できない、筈である。
    アシモフの科学エッセイなんぞを読むと「天文学者はパーセクの方をより好む」とあるが、ちょっと寂しいなあ。

  2. 小学生のころなど、「光年」と聞いただけで大スケールの物語を想像し、単純に胸がときめいたものであったが...

     

効率[こうりつ](スカイラーク3号)
  1. シートン・クレイン効果においては銅からエネルギーへの転換効率は100%とされていたが、惑星ノルミランの理論によって“燃料にウラニュームを使用すれば更に効率がUPする”ことが明らかになった。(「スカイラーク3号」を参照)

  2. これは100%を越える効率(超効率)ということになるから、一種の永久機関として動作する筈であるが、シートンは何故か永久機関としての利用を考えていない。X動力が実用化しているため、すでに十分すぎるほどエネルギーコストは低いと判断したらしい。

コスミック・バランス[こすみっく・ばらんす](参考)

  1. アタリゲームスによる傑作SFシミュレーション・ゲーム。APPLE-II用とATARI用のゲームを一枚のフロッピー・ディスク(5インチ,片面)の裏表に書き込んで売っていた。もちろん現在では入手不可能(ソフト・ハード共!)。筆者の「超」お気に入りであった。

  2. 「遊撃手」という辛口のゲーム紹介誌上に安田均氏による紹介記事が掲載された他、これに関する記事は見当たらず、極めてマイナーな作品である。

  3. ゲームの内容は大きく分けて「宇宙船の建造(定義)」と「宇宙船同士の対決」の2つから成り、前者で建造した宇宙船を後者に持ち込んでCPUの操る宇宙船と戦わせるのである。

  4. 「宇宙船の建造」ではボート並みの小型船から戦艦(ドレッドノート級)まで幾つかの船体規模(容積)を選択でき、ここにエンジンやらバリヤやらミサイルなどを詰め込んでいくのである。たとえ戦艦を選んだとしても全ての装備を持ち込むことは不可能であるし、おまけに各要素は微妙に関連しているので、攻守のバランスの取れた船を作るのはなかなか難しく、プレーヤによって色々と個性を発揮でき、また同時に自分の船に思い入れが深まるという仕掛けである。
  5. 「宇宙船同士の対決」はあらかじめ16ステップ分の行動を指示しておき、その結果は敵味方の宇宙船を俯瞰する視点の簡単なアニメーションで示される。これが完了すると再び指示が出せるのであるが、大抵はあちらこちらがダメージを受けており、これを見ながら戦術の再検討をしてまた戦闘指示という流れになる。

  6. この程度の説明でコスミック・バランスの面白さが伝わったとは思えないが、非常に面白いゲームであった。現在このようなゲームが(少なくとも家庭用ゲーム機には)見当たらないのは残念でならない。誰かプレステ用に作ってくれないものかしら?

小鼠、月世界を征服[こねずみ・げっせかい・を・せいふく](小鼠、月世界を征服)

  1. 創元推理文庫刊,著者レナード・ウイバーリー,多分おそらく入手困難。

  2. 時は1962年あたかも冷戦真っ只中のこと、宇宙開発競争に鎬を削る米ソを横目に、世界最初の有人月着陸に成功したのは、世界一小さな独立国グランド・フェンウィック大公国であった。

    そもそもの始まりは、フェン・ウィック城の配管工事近代化に必要な費用+αをアメリカへの無償借款に求めたことに過ぎなかった。もちろん「好きな時に風呂に入る」ために金が欲しいなどと、歴史を誇るフェンウィック大公国が言えることではない。何と「宇宙開発競争に参加するため」という理由が付けられていたのだ。言うまでもなく、「この予算でウチにそんなことが出来るわけないでしょ。察しておくれ。」と言う訳である。

    ところが、タイミングが悪…いや、良過ぎた。宇宙開発が大国のエゴなどではなく国際的意義のある事業であることを宣伝するため、アメリカがフェンウイック大公国に5000万ドルの援助を付けたのである。
    むろん、500万ドルが5000万になったとしても、これで有人宇宙船が出来る訳はない…筈だったのだが、大公国唯一の特産にして世界に誇るピノー・ワインの残滓から、あらゆる物質から原子反応を引き出す特殊な触媒物質「ピノー64」が発見されたのである…(おおっSFみたいじゃあないか!)

    アメリカからサターンロケットの外皮を購入し、風呂のシャワーを姿勢制御ジェットに流用して、おまけにロケットの発射台はフェンウィック城の石造りの塔(螺旋階段なので、内部は中空になっている)と来たものである。正しく全編「裏庭からロケット」の世界であり、これはもう楽しいの一語に尽きる。

  3. どう見てもSFではない(創元文庫のマークも赤いSFマークではなく、冒険ものを意味するガレー船マークである)が、SFファンなら間違いなく楽しめる作品である。古本屋でも¥100ワゴン商品扱いの様であるし、見つけたら是非買っておきましょう!

コメット号の速度[こめっと・ごう・の・そくど](キャプテンフューチャー・シリーズ)

  1. 太陽系最高速と言われるコメット号だが、実際のスピードはどのくらいであろうか?
    誰しも一度は考えたことがあろうが、原作を読んでももう一つはっきりせず、すっきりしない気持ちの方も少なくあるまい。

    実はこの問題については、既にぶちねこ氏の筆によりCaptain-Future-HPに考察が発表されている。
    筆者も楽しく拝見したのであるが、誠に残念なことに「一定速度」の条件のみで検討されており、加速しつつ飛行した場合については言及がなかった。
    また、ぶちねこ氏の研究結果によると、コメットの全速を持ってしても太陽系の横断には思った以上の日数が必要となるのだが、これにも多少の疑問がない訳ではない。加速して飛行すればもっと日数は短縮できるのではないかと思われるからである。

    と言う訳で、ぶちねこ氏の研究を多少補う意味で「定加速度」の場合についても考えてみたい。ただし、相対論的効果を含めての検討は現在の筆者の能力を超えるため、またキャプテンフューチャー・シリーズのテイストには会わないとも思われるため、ここでは古典力学の範囲で検討するものとする

    コメットの速度に関するぶちねこ氏の試算は「恐怖の宇宙帝王」中の記述「全速航行で小惑星帯から木星まで20時間」を元にして実施されているので、ここでも同じ出発点から始めることにしよう。

  2. 最初はぶちねこ氏も試算されている「小惑星帯〜木星」の経路に関して考えることとする。
    上記のようにコメットは「小惑星帯〜木星」の直線距離=3億6000万kmを20時間で飛行している。これを「一定加速度」で飛行しているとすると、最初の半分は加速し残りの半分は180度回頭して減速(逆方向に全力加速)しているであろう。

    即ち、半分の1億8000万kmを10時間加速しつづけて踏破したことになる。
    この場合、加速時間Tについては...
    距離S=(加速度a/2)*(時間T^2)が成立するから、
    18000*10^4*10^3=(a/2)*{(10*60*60)^2}となり、
    コメットの加速度a=277.8(m/s^2)=約35Gとなる。

    つまりコメットの最高(?)加速度は35Gなのだ。
    いやーこれは凄い凄い。
    木星の赤道重力は2.37G,太陽表面でも28Gであるから、35Gの加速度に耐えられる生物は太陽系内には存在しない筈である。しかしこれにも関わらずフューチャーメンはちょくちょく全速航行を実施している。彼らはなぜGに潰されないのであろう?

    熱心な読者諸氏は既にお分かりと思われるが、答えは各自が身に付けている「重力等価器」にある。全然加速を感じないのも操縦する上でやりにくいだろうから、数G程度は体感するようにはなっているだろうが、それ以上に付いては「重力等価器」で打ち消してしまえば良いのである。あとは船体がGに耐えてくれれば問題はない。
    「輝く星々のかなたへ」に登場する「停滞力場」もこの種のG軽減装置だが、こちらは重力等価器では打ち消せない数百G以上の加速度を打ち消すのに使用されるものである。

  3. 「これだからスペオペってやつは安直で困る」とお思いの方は、ぜひシェフィールド作の「マッカンドルー航宙記(創元推理文庫SF)」を読んでいただきたい。これに出てくるマッカンドルー航法も加速の衝撃を打ち消す飛行法だが---考え様によっては---もっとずっと安直でマッドである。

  4. さて、話をコメットの飛行に戻そう。
    コメットが35Gで加速しつづけたとして(もちろん燃料は十分あったとして)、地球から冥王星まではどのくらい日数がかかるであろうか?
    この加速度で冥王星まで直線で飛ぶと、全行程S=58億kmであるから、半分の距離を加速するとして

    S=29*10^4*10^7(m)となり、

    T=144493.4秒=2408.2分
     =40時間

    実際の行程はこの倍だから、必要な時間は約80時間となる。
    つまり、地球から冥王星の軌道まで行っても実質3日半である。これでぶちねこ氏の試算値よりも数分の一にはなったが、まだ悪人退治に行くには少々時間がかかり過ぎのような気もしないこともない。

    ちなみにこの場合の最高到達速度は
    V=144493*277.8=40140155(m/sec)
     =40140(km/sec)
     =光速の大体14%である。

    式からもお分かりのように、到達時間は加速度の平方根の逆数に比例する。時間を半分にするには加速度を4倍にする必要がある。

  5. キャプテンフューチャー・シリーズでは、通常のエンジンで飛ぶ場合光速を越えることはめったにないようだが、特に「光速の壁」が有るという訳でもないようである。
    短時間に光速に達するには乗員と船体に凄い加速度がかかるが、船体ごと重力等価器(停滞力場)を作動させていれば恐くも何ともない。サイクロトロンの出力さえ十分あるならば、それこそあっという間に亜光速に達してしまうことも可能である。

    参考までに、光が地球〜冥王星間の距離を走るに必要な時間は
    T=S/V=(58*10^4*10^7)/(30*10^7)
     =19333(秒)
     =322(分)
     =5.4(時間)

  6. 以上のように、ほぼ光速なら太陽系内のいかなる犯罪現場に急行するにも十分であろう。
    しかしながら、太陽系内の産業用軌道(恐らく黄道面またはその付近)を亜光速ですっ飛ばされてもちょいと迷惑である。おそらくは予め黄道面から多少外れて(追い越し車線のようなもの?)おいて、木星軌道内までは数G〜数十Gの加速で航行し、それ以遠では更に高出力で加速して亜光速航行または光速の数倍程度(!)で急行というのではなかろうか。


コンデンサー[こんでんさー](参考)

  1. 「抵抗器」「コイル」などと同様に基本的な電気部品の一つ。二枚の金属板の間に絶縁体を挟んで重ねあわせた構造になっており、電気エネルギーを一時的に蓄積する機能がある。
    キャパシターとも言う。

  2. キャプテンフュチャー・シリーズ中で、宇宙船のサイクロトロンの始動に使用されている素子。
    粉末状の銅とカルシウム粉末などを混ぜ合わせた「原子燃料」に電気スパークを浴びせ、原子爆発を誘発させるのであるが、これなど原子力エンジンの起動と言うよりも、むしろハッパの点火に近い感覚である。うーむ、すばらしい。

  3. ところでコメット号の図解には、一見したところ起動用コンデンサが掲載されていない。これは何故だろうか?
    「単純な描き忘れ」と考えるようでは修行(何の修行だ?)が足りないと言わざるを得ない。わかりにくい形だが、実はちゃんと図解に載っているのである。

    ハミルトン自身が「謎の宇宙船強奪団」巻末において解説しているが、コメット号の外壁は「耐熱金属と特殊な絶縁材料との重ねあわせ」であり、これはコンデンサの構造そのものではないか。

    コンデンサの容量は対向する金属板の面積が大きいほど大であるから、コメットの外壁を利用できれば非常に大容量のコンデンサとなるであろう。この方法ならキャビン容積も節約できるので、コメットのような小型宇宙艇には大変好都合である。

  4. さて、一回放電したコンデンサはカラッポなので、次回の起動に備えてサイクロトロン運転中に自動的に充電されていると考えられる。ということは、不幸にしてコンデンサが過放電状態でサイクロトロンがエンストした場合、手動でエンヤコラと発電機を回してコンデンサに充電する必要がある。宇宙船のサイクロトロンには、付属品として手動起動ハンドル(クラシック・カーのフロント・グリルに差し込んでグルグル回すのと同じ形?)が付いているにちがいない。

    追記.
    上でエラそうに書いてますが、「宇宙囚人船の反乱」の中で高圧発生コイルと手動クランクが出てきます。良く読んでから書かないだめですね。最初に充電するときは、やっぱり人力が一番安くて確実ということのようです。


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